ラグビーの多勢遅れて駆けりくる 山口誓子
「山口誓子集 朝日文庫(1983年)」 より引いた。有名句「ラグビーのジャケツちぎれて闘へる」の隣に置かれている。トライを決める選手の後ろから追いかけてくる脇役たちに視線が注がれている。とても俳句的だと思った。MVPを詠むよりも、滑稽で読んでいて楽しい。「多勢」という熟語の詰まり具合が、「多勢」がベストな表現だと思わせてくれる。「ラグビーの多勢」という表現は一見わかりにくいかもしれない。ジャケツの句の隣に置かれることでより輝きを増す。
-BLOG俳句新空間‐編集による日替詩歌鑑賞
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ラグビーの多勢遅れて駆けりくる 山口誓子
ものにみな影戻りきて虹立ちぬなる句が置かれている。一方では虹が立ち、他方で諸々の「もの」には、存在し且つ非実存である悲哀が、影となって戻り来るのである。戻り来る前には、影の無い時間があったであろうが、それはどんな時間であるか。夜、ではつまらない。ものが「もの」として有ることを忘れている、無我の時間ではないかと取りたい。全て「もの」は有情無情に拘らず(人であろうと虫であろうと草であろうと石であろうと)、存在しようとする意志ゆえに存在するのである。どうも倶舎論になりそうなので、もうやめておく。平成二十二年作。