2017年11月30日木曜日

DAZZLEHAIKU15[友岡子郷]渡邉美保

   掛け大根より白波の船現るる   友岡子郷

掛け大根の白と白波の白。
一句の中では白い色のみが述べられているが、そこには澄み渡る青い空、遠く広がる青い海原、青を背景にして、白の際立つ光景が目に浮かぶ。冬の冷たい空気の中で、青と白の対比がとても美しく、清々しい。
最近はあまり見られなくなった掛け大根。高々と干された大根の真っ白な列が並ぶ風景は、郷愁を誘う。掛け大根は、寒風にさらすほど甘味が増し、美味しい沢庵ができるという。沢庵を漬けるということが珍しくなった現在、掛け大根の風景は、失われゆく生活の実景の一つだと思う。
掛け大根に視界が遮られているとき、白波を立てて進んでくる船は突如、掛け大根の間から現れる。いつもとは違う光景がユーモラスである。船の音、波の音も聞こえてくる。


〈句集『海の音』朔出版2017年所収〉

2017年11月14日火曜日

DAZZLEHAIKU14[友岡子郷]渡邉美保



   文手渡すやうに寄せくる小春波   友岡子郷


冬に入ったとはいえ、春のように暖かい小春日和。うららかな空、うららかな日ざしのもと、海岸にいると、波は一定の間隔を置きながら、ゆったりと寄せてはかえす。次から次へと畳みかけてくる波の様子が目に浮かぶ。その単調で、静かな波音も聞こえてきそうだ。
波が寄せてくるさまはまさしく「文手渡すやうに」なのだ。それは巻紙にしたためられた長い長い文かもしれない。
本句集のあとがきに「海鳴り、潮風、舟の音…、今の私の生活圏にある」と記されている作者ならではの繊細な感懐ではないだろうか。
海のひろさ、水平線のはるかさ、日頃の思いがすべて含まれているような気がする。
寒さに向う前のほっとするような暖かいひととき、「文手渡すやうに」と形容される波がなんともやさしく、さびしい。


〈句集『海の音』朔出版2117年所収〉