リール巻く傍に青鷺従へて 石井清吾
釣りの一場面、〈リール巻く〉は竿にアタリがあり「きた、きた、きた」とばかりに、今しも魚を引き上げようとしている瞬間なのだろうか。傍に従えているのが〈青鷺〉というのがなんともユーモラスである。青鷺はたまたま近くにいただけで(従者じゃないよ)っていう顔しているかもしれない。
一句の中に明らかなのは「リール巻く」という釣りの動作と傍に青鷺を従えているということだけである。一人と一羽の物語は読み手にゆだねられている。
緑に囲まれた人気のないひそやかな水辺。澄んだ空気の中で、釣り人(少年がいいな)も青鷺もただ静かに水面を見つめている。静謐なひととき。青鷺の青い容姿と釣り人が水辺に立つ光景は、涼やかで、魅力的だ。
やがて静寂がやぶれ、釣り人はリールを巻き始める。魚は釣れたのだろうか。釣り上げた魚を青鷺に自慢する場面。或いは、餌だけ取られて、獲物に逃げられ青鷺に笑われる場面。どちらを想像しても愉快。一句の中を、心地よい涼風が吹き抜けていく。
句集『水運ぶ船』(2020年/本阿弥書店)所収〉