熊ん蜂釣船草に頭を深く 岡田一実
野山を歩いていて、ふだんあまり見ることのできない草花に出会うと、思わず興奮してしまうことがある。
〈釣船草〉もそういう花のひとつだと思う。
山麓の湿地や小川の縁に自生。花の様子が、吊り下げられた帆掛け船に似ていることから付けられた名前だという。
か細い茎から下がる船の形の紅紫の花は、可憐で、風に揺れるさまは儚げである。
花の後側にはクルリと巻いた渦巻(距)があり、中にたくさんの蜜が入っているそうだ。
一方、〈熊ん蜂〉は、ずんぐりむっくりした黒い大きな体、ブーンと大きな音を立てて、好物の花粉や蜜を集めるために花から花へと飛び回る。
そんな熊ん蜂が釣船草にやって来る。釣船草の蜜を吸うためには、熊ん蜂は花の中に〈頭を深く〉入れなければならないのだ。
掲句の、その光景は、ちょっとユーモラスな感じもするが、華奢で儚げな釣船草に潜る熊ん蜂が、なんだか狼藉者のようにも思える。
〈句集『光聴』(2021年/素粒社)所収〉