突堤の先が冬日の中に消ゆ 茅根知子
海に突き出た突堤は、どこよりも海を近くに感じられる場所だと思う。潮風に吹かれながら、打ち寄せる波音を聴きながら、散歩をしたり、釣りをしたり。海に沈む夕日を眺める絶好のスポットでもある。
さて、掲句。突堤の先が冬日の中に消える(消えている)つまり、見えなくなっているという。よく晴れた冬の一日、日差しは特有の明るさを持つ。突堤には目に痛いほど眩しい光が降り注ぎ、周りの海面もまた光の乱反射。どこまでが突堤なのか、どこからが海なのか、境目がわからないままキラキラと輝いている。そんな〈冬日の中に〉なのだろうと思う。突堤の先が見えない。突堤を真直ぐ進んでいくと、そのまま海へ入ってしまいそう。
突堤の先へ行きたいけれど、先へ進めない。今まで見えていたものが、見えなくなるという不安と魅力。
——ここにおいで ここにおいで
——きてはだめ きてはだめ
そんな声が聴こえはしないだろうか。
〈句集『赤い金魚』(2021年/本阿弥書店)所収〉