九月が好き崩れる雲が速いから 花谷 清
九月に入っても、まだ暑い日が続くなか、見上げる空は、青空半分、雲半分の空模様。青を背景に白くモコモコした雲が浮かんでいる。一方で、うすい雲が、真綿を引くように徐々に広がっていく。
暑気、涼気の行き合う空には、夏の雲と秋の雲が混在していて面白い。
こんな雲の様子を見ることが出来るのは、季節の変わり目の短い間で、まさしく九月なのだと思う。九月になると、空を見上げ、雲の流れを眺めることが増えるような気がする。
掲句、「崩れる雲が速い」からは、台風の影響で変化する雲の動きも思われる。風の速い流れに従い、形を変えながら移動し、途切れ散り散りになってしまう雲。壮大な天体の、不穏な空気を孕みつつも、次々に崩れてゆく雲の動きに魅了されそうだ。
〈見つつ消ゆ雲あり秋の雲の中 皆吉爽雨 〉
〈すさまじき雲の走りや秋の空 政岡子規 〉
〈颱風の雲しんしんと月をつつむ 大野林火 〉
〈鰯雲しづかにほろぶ刻の影 石原八束 〉
〈句集『球殻』(2018年/ふらんす堂)所収〉