2014年12月12日金曜日

今日の小川軽舟 23 / 竹岡一郎

   
羊歯原に白樺立てる良夜かな        「近所」

 羊歯の葉の裏は白い。白樺の幹は白い。月煌々たる夜を表わす季語のもと、この景を最良の状態として読むならば、月光に何もかも白く照り映えている様を思い浮かべるだろう。ならば、羊歯原には風が吹いている筈だ。なぜなら風が吹くとき、羊歯の葉は一斉に打ち裏返り、白い葉裏を月光に晒すからである。つまり、掲句は、風という語を使わず、風の吹く形容も使わずして、風にあおられる原を現出させている。上五と中七で「シ」の頭韻を踏んでいる処に、その風の音さえ聞こえるようではないか。平成十年作。