花折断層に沿つて音たて春の川 尾池和夫
今年で二十年を迎える。兵庫県南部地震と、それによる阪神・淡路大震災である。京都の地で地震を研究する京都大学元総長・尾池和夫氏にとって、この地震はいかなるものであったのだろう。
掲句はその年、平成七年の作。花折断層とは、滋賀県高島市今津町から京都市左京区に至る直線性の高い右横ずれ断層である。京都大学のすぐ隣にある吉田山を作ったのもこの断層。地図を見れば、花折断層に沿うように、高野川(出町柳で賀茂川と合流し鴨川となる)が流れている。春の川は、この川をイメージしているのだろうか。地図を見なくたって、京都人なら多分、高野川や鴨川をイメージするだろう。
どこをどんなふうに川が流れていようと、たとえそれが断層に沿っていようとそうでなかろうと、川は音をたてる。でもこの句では、何か自然の、地球の息吹が川から聴こえてくるよう。「花折断層」という固有名詞が、この句に鮮やかな春の彩りを与えているかのようだ。「花」という文字の存在、そして実際、高野川沿いの桜は美しい。
固有名詞の生み出す春の彩り、大地の呼吸。十七音にこれほどまでの自然を詠み込むことができるなんて。十七音の世界は、無限大だ。
※花折断層[はなおりだんそう]
http://www.eco100.jp/ecoworld/eco_teaching.html(名前の由来など)
《出典:尾池和夫『大地』(2004,角川書店)》