2015年2月13日金曜日

今日の安井浩司 3  / 竹岡一郎


老農は鎌で泉を飲みにけり          安井浩司
老農には「年老いた農夫」の他に「熟練した農夫」の意もある。鎌で泉を飲むのも、その熟練の一端であるが、水を飲むのさえ本来は刃物を銜えるが如き危険を伴うのであると思わせる。生を保持するとは危険な事なのだ。鎌が何を暗喩させるかといえば、これは俳句において語られているのだから、俳人は当然、熟練の農夫であり、鎌とは言葉、もっと言えば俳句形式である。使いこなした研がれた鎌で鮮烈な泉を飲むが如く、句とは作られるべきであるか。

<「汝と我」(増補安井浩司全句集493頁)>