更衣駅白波となりにけり 綾部仁喜扉が開き、車両からホームへ今か今かと待ち構えていた白い服の人々が飛び出した直後だろうか。もしくはぎゅうぎゅうの改札から抜け出し三三五五となる直前だろうか。「綾部仁喜の百句」によると 「『中央線八王子駅隣接の一病院に入院中の作』という自註がある。」とのことだが、改札説でも面白いのでは、と思った。いや、ホーム説の方が景が立体的だろうか。
対象化された映像としての「白波」という言葉の選択は比喩としての力を持つだけでなく、自分がこの「白波」の一部と成り得るのだ、ということも思わせてくれるのがこの句の強さである。どどどど…という音が筆者には聞こえてきた。