2015年3月11日水曜日

貯金箱を割る日 21 [阿部開晴] / 仮屋賢一



春の坂余震の中を止まらずに  阿部開晴

 年に一回のイベントは、その歴史を追うだけで当時の社会の様子が浮かび上がってくる、なんてことがあるから面白い。それは決してその当時の全部ではないけれども、真実の一端であることに疑う余地はない。

 毎年夏に行われる、高校生のための俳句の一大イベント、俳句甲子園。2011年、その全国大会には、被災地と呼ばれる地域の高校の生徒も参加していた。彼ら、彼女らの作品には、地震や震災のことを詠んだ句もあった。改めてその時に提出された句を眺めてみると、それらの句は決して多いとは言えない量ではあったけれども、当時の俳句甲子園を特徴づけるには十分な数であった。

 掲句の作者は当時、岩手県立黒沢尻北高等学校からのチームとして出場していた。震災・地震というテーマの中で、「余震」を詠むことを選択した。一つの地震に、本震は一つ。対して余震は長く続く。

 春の坂は、輝かしい光のなか、空へ向かって伸びている。再度起こる余震の中、その坂道を登る主人公。「止まらない」のは馴れたからなんかじゃない、諦めなんてネガティヴなものでもない。そこにあるのは強い意志。


 ここからは幾分勝手なことを述べるが、「一紙半銭も私せず」という精神とともに、剣術家・柳生但馬守宗矩の生涯を、家康・秀忠・家光の徳川三代の時代を背景に描いた作品がある。NHK大河ドラマ、『春の坂道』である。残念ながら本篇はほぼ見られないが、大御所・三善晃氏によるテーマ曲は好きで何度も聴いている(三善氏の2年前の訃報に際しては、どれだけ驚きどれだけ悼んだことか)。この作品中でも一切ブレない三善氏の作曲姿勢も去ることながら、スタート地点から着実に坂道を登り続けていくようなエネルギーが貫徹して存在する。名曲である。


 話が大分逸れてしまったが、この句にもそのようなエネルギーを感じずにはいられない。考えてみれば、地震を引き起こす源は大地に秘められたエネルギー。自然に抗わず、自分を卑下することもなく、等身大の自分のままでいる。だからこそ、大地のエネルギーに勝るとも劣らない人間のエネルギーを、当時の高校生は見出すことができた。そして、俳句という詩を信じ、その想いをそこに託したのである。

《出典:『第十四回俳句甲子園公式作品集 創刊ゼロ号』(NPO法人俳句甲子園実行委員会,2011)》