2015年4月1日水曜日

今日の小川軽舟 36 / 竹岡一郎



眼光ととほきひばりともとめあふ   「手帖」

 作者は野にあって、空に鳴く雲雀を見ている。「とほき」とあるから、空に響き渡る声がなければ遠い一点にしか見えない雲雀である。その一点の雲雀は、眼光鋭く求めねばわからぬ姿である。だから、上五を「眼光が」として、下五を「もとめけり」としても、一応景が立つ句であるのだが、そこで上五の末尾に「と」をおき、下五の末尾を「あふ」としたのが、さらなる工夫である。

作者の目は雲雀を求めている。だが、雲雀の方はどうか。雲雀も、地の遙かな一点であるこちらを見ようとしているのではないか。雲雀の目と自分の目は、或いは互いに相手の姿を求め合っていて、もしかしたら期せずして雲雀と自分の視線は交わっているのではないか。こう考える処に、雲雀の立ち位置から自分を見ようとする客観性が生まれる。単なる客観写生ではない。雲雀と作者と、二つの主観が合い交わる事によって生まれる客観性である。平成十七年。