暮れかかる空が蜻蛉の翅の中 津川絵里子
夕方、シオカラトンボが一匹、ツーとやって来て、自転車の荷台の上に留まった。すぐに飛んで行ってしまったが、透き通ったその翅は空の色をそのまま映していた。
〈とんぼの はねは そらの いろ そらまで とびたいからかしら 〉
(「とんぼのはねは」まどみちお)という詩の一節を思い出す。
そして、掲句から、とんぼの翅が「そらのいろ」なのは、翅の中に空があるからなのだと、気付かされる。
〈暮れかかる空〉が〈蜻蛉の翅の中〉にあるという発見。
とんぼの翅の中に空がある。そして、周りには広い空。とんぼは空に包まれていて、自分を包む空を、その薄い翅の中に取り込んでいる。
とんぼの翅の中で空は、どんどん広がって、とんぼの翅もどんどん広がって、蜻蛉の存在が宇宙へと拡大する。そんな光景を思い描かせてくれる。
〈句集『夜の水平線』(2020年/ふらんす堂)所収〉