初恋は残酷なりし桔梗かな 「近所」
「なりし」という過去から、自身の初恋を懐かしんでいるのであろう。恐らくは恋敗れたのであろう。初恋の相手が如何なる女であったかには言及されていないが、桔梗を配している処から、容易に想像されうるのである。桔梗の立ち姿から想起される如く、凛然として意志の強い、寡黙な女である。これが仮に牡丹、薔薇、百合であるなら、そのように形容される女であったのなら、最悪、作者は弄ばれたのである。また、向日葵、或いはカンナなら、行き過ぎた情熱の果の破綻だったのである。桔梗であるがゆえに、節度ある、毅然とした女が見えて来る。そのような女との初恋であったがゆえに、残酷に破れたとしても、時を経て、美しい思い出となり得るのだ。桔梗には匂いはほとんどないが、掲句には微かな無垢の匂いとでもいうべきが漂うように思う。平成十一年作。