2015年1月20日火曜日

今日の小川軽舟 29 / 竹岡一郎


地は霜に世は欲望にかがやける      「呼鈴」

「地」と「世」の違いを考える。「地」とは人間の恣意の外の世界、鳥獣が住み人間も生物の一種に過ぎぬ自然の世界であろう。一方、「世」とは人間の恣意の世界、人間の文明の社会であろう。霜に輝く地は儚く美しく、一方で、人間の欲望に輝く世界はどろどろと惨たらしい。

「かがやく」なる措辞が「欲望」にも掛かるのは、作者が必ずしも人間の欲望を糾弾しているわけではないことを示している。同時に、輝くものとして霜と欲望を並列しているのは、人間の欲望の儚さ、それが成就したとしても本質的に儚いものであることを、霜の儚さに喩えているのである。

霜は儚いから輝くのかもしれぬ。だが、欲望は輝いても儚い。この世の一切の栄光は滅びる、と容赦なく目覚めざるを得ないのが、作者の聡明さであろう。下五の「かがやける」は、(自然現象に過ぎぬ)霜にも、(所詮は自己保存の手段に過ぎぬ)欲望にも掛かるのだが、実は霜と欲望を、良いとも悪いとも断じずに只見つめている、その醒めた眼差しに掛かるのではないかと思わせる。平成二十年作。