2024年2月27日火曜日

DAZZLEHAIKU75[柴田多鶴子]  渡邉美保

 春を待つ赤肌さらすバクチの木   柴田多鶴子    


 「これ、バクチの木よ」と教えてもらい驚いたことがある。目の前の高木は、誰かが無理やり樹皮を剥がしたかのように、赤黄色の木肌がむき出しになっている。灰褐色の樹皮は、たえず自然にはがれ落ちるのだという。樹皮あっての幹ではないかと思うと、なんだか痛々しいが、それで「バクチの木?」と、思わず笑ってしまった。

 博打に負けて身ぐるみ剥がれ、裸になるのに例えての名だとのこと。昔の命名者にしばし感心。博打で、身ぐるみはがされ裸になる人が多かったのか、「博打に手を出したらこうなるぞ」との戒めの意味だったのか…。

 別名、毘蘭樹。葉から薬用のバクチ水をとり鎮咳薬とする。材は硬く、器具・家具用とある。有用な木なのだろう。


 春が近づいてきて暖かい日が多くなると、春を待つ心がひときわ強まる。「赤肌をさらすバクチの木」であればなおさらだろう。

 春早くこよと願うのは、バクチの木であり、バクチの木を見ている作者なのだと思う。

〈『俳壇』3月号(2024年/本阿弥書店)所収〉