2017年12月18日月曜日

DAZZLEHAIKU16[安田中彦]渡邉美保

死にぎはの鯨見にゆく日曜日  安田中彦

何らかの理由により浅瀬や湾などの海浜に、生きたまま乗り上げた鯨のことを座礁鯨、あるいは寄り鯨というそうだ。
どこそこの海岸に鯨が迷い込んできたというニュースをたまに聞くことがある。そういった鯨は、人の手で外海に戻そうとしても生き延びるのは難しく、助かることは少ないそうだ。そして、その鯨を見るために、近隣から多くの人が集まって来るという。なかには自前のチェンソーとクーラーボックスを持参する人もいるらしい。
掲句、「死にぎはの」の直截的な措辞に、気の毒な鯨の事情と、それを見に行く作者の屈折した思いが想像される。
瀕死の鯨の悲しみ、あえてそれを見に行く、やみがたい好奇心、罪悪感。鯨にとっては、生き難くなってしまった地球、そうさせているのは人間なのでは?の煩悶。「死にぎはの」が投げかける意味は深い。



〈句集『人類』(邑書林/2017年)所収〉