朝かと問われ夜と答える水中花 花谷 清
不思議な一句だと思う。
水中花の飾られた部屋に、朝かと問う人がいる。夜だと答える人がいる。どういう場面設定を想起するかは読者にゆだねられている。
或いは…と別の解釈もできそうだ。
真夜中にふと眼覚め、朝かと思う刹那がある。「いや、まだ夜だ」と自分が気付くより先に水中花がそう答えた。と読むことはできないだろうか。問いはそのまま答えとなる。
色うつくしい花の姿にひらいて、コップの水の中に凝としづまっている水中花は、華やぎと哀れさとを合わせ持つ人工の花。いつだって「夜」と答えそうな気がする。水中花に朝は来るのだろうか。
夜と朝のあわいの短い会話から、或いは、自問自答から、人間のこころもとなさが感じられる。水中花という幻想の花もまた、こころもとなく、両者をとおして、生と死について考えさせられる。
〈句集『球殻』(2018年/ふらんす堂)所収〉