夏萩や母の棺のひよいと浮く 内田 茂
涼やかな緑の葉蔭から紫紅色の花をのぞかせる夏萩の、控えめで細やかな美しさ、どことなくさびしげな風情が「母の棺」に情感をそえている。
「母逝く(享年八十九歳)」と前書きが付されている一句の、天寿を全うされたであろう母上との別れの一場面。
それなりの重さを覚悟して持ち上げた棺はひょいと浮いた。
思いのほか軽くて、そう感じたか。或いは、本当に浮いたのかもしれない。作者の小さな「あっ」が聴こえてきそうだ。
「ひよいと浮く」という軽やかな表現から、母上の生前の人となりが思われる。優しく、朗らかで、明るい人だったような気がする。ひょいと浮いたのは、残された者への母の思いやりともとれそうだ。
高齢の母との別れの場面が、さらりと述べられていることで、見送られる母の安らぎ、見送る側の安堵感が伝わってくる。そして、作者の母に寄せる思いの深さも。
〈句集『管制塔』(2018年/ふらんす堂)所収〉