クラゲが波間をゆらゆら漂っている。多くのクラゲは自力で泳いでいるのだけれど、なかには、すでに死んでいて、ただ、身体だけがゆらゆら浮いていることもあるだろう。波間を漂う姿には、のんきそうに見える時もあり、寄辺ない寂しさを感じるときもある。
クラゲの寿命は、種類によって違うそうだが、日本近海に最も多く見られるミズクラゲは寿命が一年前後あるというから、意外と長寿。
掲句の「死にくらげ」という表現にドキリとするが、死んでなお「けらくけらく」と漂うくらげは、なんだか幸せそうにも思える。
「くら・けら・けら」のK音とR音の繰り返しが一句にリズムを生み、あっけらかんと明るい。なにしろ、けらくけらくなのだ。
「けらく」は、仏教でいう「快楽(けらく)」のことかと思う。人が普通に考える快楽(かいらく)とは意味が違い、いわば普通の快楽を捨てることによって得られる快感という意味だという。
くらげの死を哀れんだり、儚く思ったりするのではなく、生も死もひっくるめて自然界のあるがままを受け入れる。ここに作者の生き物たちへのおおらかな眼差しを感じる。
〈『はばたき』(2019年/角川文化振興財団所収〉