囀りの後の羽音と枝の揺れ 北川美美
庭の白梅が咲き始めると鳥たちがやって来る。チチチ、チュチュチュ…まだ冷たい朝の空気の中、鳥たちの羽音や鳴き声で目が覚める。
〈囀りと聞きとめしとき目覚めけり 林翔〉
その声を聞きながら、しばしまどろむ。早春の朝のたのしみである。鳥の姿を見ようと、窓を開けると、その瞬間、鳥たち飛び立ってしまう。あ、残念。
歳時記によると、囀りは繁殖期の鳥の雄の鳴き声を言い、いわゆる地鳴きとは区別して使われるとあるので、掲句の場合、高らかな鳴き声が聞こえていたのかも知れない。
先程までの、降りそそぐような囀りはもう聞けない。飛び立つときの羽音が耳に、枝先の揺れが目に残っているばかり。
囀りの明るさに対して、鳥たちが飛び去った後の景色を見ている作者の心の翳りのようなものが感じられる。ほんの些細なことなのだけれど、その一瞬の取り残されたような淋しさ、微かな喪失感が滲む一句である。
〈俳句新空間NO.12 (2020年実業公報社)所収〉