家中に草のびている朝寝かな 岡田耕治
「朝寝」は一年中することだけれど、春の朝の寝心地は格別。春の季語である。
この季節、一度目が覚めてから、またとろとろと眠る時間はどうしてあんなに心地よいのだろう。目覚時計のベルを止めてほんの数分と思っていたら、数十分過ぎていてあわてて起きることしばしば…である。
さて掲句、「家中に草が伸びているような気のする朝寝だ」ということだろうか。
朝の光を浴びて生長する植物の旺盛な生命力、その瑞々しい空気の中で朝寝している主人公の健やかな眠り。おおどかな民話の世界のようで愉快である。
一方、「朝寝している間に家中に草が生い茂っている」と思うと、少々怖い光景に思えてくるから不思議だ。
家中に生い茂る草は、地面から、床を破って伸びてきたのだろうか。眠っている主人公の体に絡まったり首を絞めたりはしないのだろうか。想像がどうもホラーめく。
一見、のどかな光景の裏に怖さが隠れているような、そんな気がする一句である。
〈句集『日脚』(2017年/邑書林)所収〉