昼寝覚この世の水をラッパ飲み 内田美紗
昼寝覚めには、朝の目覚めとは違う、独特の感覚がつきまとう。
夏の暑さの中で、元気回復によいとされている昼寝であるが、二、三十分のつもりが一時間以上寝てしまい、妙にだるさが残ることがある。目覚めてしばらくはぼうっとして体が重い。汗で額に髪が貼りついていたりする。何かに追われ、必死に逃げてきたのか、或いは水中を歩いてきたのか。夢を見ていたのかもしれないが、何も覚えていないのである。
さて掲句、「この世の水」を「ラッパ飲み」と表現されることで、昼寝覚めのただならぬ気配が迫って来る。水を飲まねばならぬのだ。「ラッパ飲み」の勢いで。(最近はあまり使われなくなった言葉だが)「ラッパ飲み」にはなりふり構わぬ必死さが感じられる。水を飲むことでようやく一息。乾いた喉を潤す水は、まさしく「この世の水」なのだ。
「この世の水」は自分を取り戻す水であり、明日を生きる水ではないかと思う。昼寝の間、作者はいったい何処へ行っていたのだろうか。
異次元をすこし出入り昼寝覚 柴崎英子
この世よりあの世よかりし昼寝覚 鷹羽狩行
生き返る方をえらんで昼寝覚 井上菜摘子
〈『鉄砲百合の射程距離』(2017年/月曜社)所収〉