文手渡すやうに寄せくる小春波 友岡子郷
冬に入ったとはいえ、春のように暖かい小春日和。うららかな空、うららかな日ざしのもと、海岸にいると、波は一定の間隔を置きながら、ゆったりと寄せてはかえす。次から次へと畳みかけてくる波の様子が目に浮かぶ。その単調で、静かな波音も聞こえてきそうだ。
波が寄せてくるさまはまさしく「文手渡すやうに」なのだ。それは巻紙にしたためられた長い長い文かもしれない。
本句集のあとがきに「海鳴り、潮風、舟の音…、今の私の生活圏にある」と記されている作者ならではの繊細な感懐ではないだろうか。
海のひろさ、水平線のはるかさ、日頃の思いがすべて含まれているような気がする。
寒さに向う前のほっとするような暖かいひととき、「文手渡すやうに」と形容される波がなんともやさしく、さびしい。
〈句集『海の音』朔出版2117年所収〉