2019年1月22日火曜日

DAZZLEHAIKU30[岡田一実] 渡邉美保



 夜の森や濡れてマフラー置かれある  岡田一実     

   これは確かにどこかで〈見た〉景色です。
   現実に、想念に〈見た〉景色です。


と「あとがき」にある。掲句を読むと、作者が〈見た〉景色を作者の眼を通して見ているような不思議な感覚になる。
 夜という時間、森という場所、濡れたマフラー。
 ただこれだけの情報から私たちは、それぞれが自分の記憶を頼りに物語を作り始める。
 そんな仕掛けが施されているかのようだ。
 寒い夜の森の中。切株の上に置かれた一本のマフラー。
 月の光に照らされて、マフラーはまるで生き物のように、しっとりと息づいている。現実から遠く離れたこの光景に、何故か懐かしさがこみ上げてくる。
 誰もいない森の中で、動物たちもこのマフラーを首に巻いて遊んだのだろうか。
 夜の森の湿った空気の中でマフラーは濡れている。その濡れたマフラーを私も首に巻いてみる。ひやりとする感触。巻いた瞬間、マフラーと同時に私も消えてしまった。そんな夢をみた。

〈句集『記憶における沼とその他の在処』(2017年/青磁社)所収〉