冴え返る紙のコップに水摑み 柘植史子
水の中に手を入れ、手のひらを思いっきり広げ、エイヤッと摑んでも水は逃げてしまう。当然のことながら水は摑めない。それでも水を摑みたいという願望がどこかにある。
掲句の「水摑み」に妙に納得させられた。紙のコップに入った水は摑めるのだ。
水の入った紙コップを持った時の、あの危うい感じが指先に甦る。そしてその冷たい感触。まさしく「水摑み」だと共感する。
暖かくなり始めた早春の頃、折からの寒さがぶり返してきて、気持ちの上でも寒くなる感じを「水摑み」と重ね合わせられている巧みさに惹かれる。
また、紙コップを使う場面は、日常的なものでなく、何かの集まりなのかもしれない。そんな集まりの中での、ある種の疎外感や寂寥感をも感じられる一句だと思う。
〈句集『雨の梯子』(2018年/ふらんす堂)所収〉