放哉忌うみ凪げば凪ぐ寂しさも 福田鬼晶
尾崎放哉は、大正十五年(1926年)四月七日小豆島の庵で息を引取った。享年四十二歳。
四月初旬の頃の天候は、不安定である。
風が吹き、海が荒れている日もあれば、陽光が降りそそぐ、穏やかな日もある。
掲句、作者が今見ている海は、穏やかに凪いでいる。
凪いだ海を見ていると、心もおだやかになるがその反面、凪いでいることが寂しく思えてくるという。
その寂しさに、作者の放哉への思いの深さが感じられる。
また、海が「うみ」と平仮名表記されることによって、「うみ」は眼前の海であると同時に、かつて晦冥の世界であり死者の国でもあったという「うみ」も想起される。
凪いだ海を見ている寂しさは、放哉にもあるのではないか。
作者が思う放哉も「うみ」の凪を見ながら寂しさを募らせているのではないのだろうか。と思われてくる一句だ。
〈句集『リュウグウノツカイ』(2018年/ふらんす堂)所収〉