飛んでくる蠅に大らか烏賊を干す 榎本 亨
海辺の町の「烏賊を干す」というイメージは鮮やかだ。
ずらりと一列に干された烏賊の白い身が光り、その向こうに青い空と青い海が広がっている。潮風がときおり、干された烏賊を揺らす。
そこへ、匂いを嗅ぎつけてか、蠅が飛んでくる。不衛生ということで、嫌われることの多い蠅であるが、ここでは多分、想定内の許容範囲。いちいち気にしてはいられないのだ。
烏賊を干す作業、飛んでくる蠅、その一部始終を見ている作者の眼差しもまた大らかで、一句一章の伸びやかな景に懐かしさを覚える。
衛生管理の行き届いた設備の中、機械的に乾燥させた干し烏賊よりは、少々蠅がとまろうとも、天日を浴び、潮風に吹かれた烏賊の方が断然美味しいと思う。
〈季刊『なんぢゃ』[夏]45号(2019年)所収〉