行く夏のからとむらひか沖に船 栗林 浩
「からとむらひ」という言葉にはっとする。
広辞苑に「空葬。死体の発見されない死人のために仮に行う葬式」とある。
「からとむらひ」から
〈屍なき漁夫の弔ひ冬鷗〉 平野卍
〈屍なき柩のすわる隙間風〉 〃
の句が思い浮かぶ。冬の海で遭難した死者の葬儀、空の柩の虚しさが悲しみを深くする。
しかし、掲句の「からとむらひか」という軽い疑問形には、悲愴感や暗さはない。
作者の視線は沖へ向いている。過ぎてゆく夏へ向けた遠まなざし。
沖を行く船が、行く夏を弔っているかのようだということだろうか。
空の色や雲の形、海の色、波の高さに夏の衰え、秋の気配を感じる、明るいけれど、どこかもの悲しさを秘めた景を思わせる。
夏の終りは、太平洋戦争の死者たち、海で命を落とした人たちを思う季節でもある。沖を行く船や寄せる波に鎮魂の思いが込められているような気がする。
〈句集『うさぎの話』(2019年/角川書店)所収〉