ごきぶりの髭振る夜も明けにけり ふけとしこ
ごきぶりを見ると、反射的に臨戦態勢をとってしまうので、(たいていは逃げられてしまうのだが)「髭振る」ことに注目したことは、ほぼない。
確かにごきぶりには一対の髭がある。その髭は嗅覚、触覚などをつかさどり、食物を探したり、外敵を防ぐ用をするという。
このごきぶりは、髭を振り振り何を探しているのだろうか。それをじっと見ている作者の視線。ここでは、ごきぶりは忌み嫌う対象ではないようだ。
「夜も明けにけり」の「も」は、「ごきぶりの夜も」「私の夜も」の「も」ではないかと思う。
「明けにけり」(明けてしまったよ)にどことなく感じられるやるせなさや倦怠感。短夜と言われる夏の夜。作者にもごきぶりにも夜はまだ続いて欲しかったのではないだろうか。同句集中
〈ごきぶりに子がうまれるぞこんな夜は〉の句も。
〈句集『眠たい羊』(2019年/ふらんす堂)所収〉