鎌の刃に露草の花のつてゐる 山口昭男
鎌の刃と聞くとなんとなく心がざわめく。三日月のような湾曲した形と、刃はつねに自分に向かってくるという怖さがある。だが本来、鎌は、草を刈ったり、作物を収穫するために日常的に用いられる農具である。刈った草が刃の上に乗り、そのまま一緒に運ばれて手元まで寄って来るので、効率よく草刈をすることができるという。
一方、露草は道端や畑にはえる一年草。夏から秋にかけて藍色の清楚な花を咲かせる。その清く儚いイメージとは裏腹に、生命力旺盛で、畑にとっては、蔓延すると厄介な雑草である。
容赦なく刈り取られていく雑草、露草。ふと見ると鎌の刃に切られた露草の花が乗っている。農作業の後の(もしくは最中の)見過ごしてしまいそうな光景に目をとめた作者。よく切れそうな鎌の刃と、目の覚めるような瑠璃色の可憐な花。
「鎌の刃に露草の花のつてゐる」ただそれだけで、瑞々しい映像が浮かぶ。美しくも、シュールにも想像できる一句である。
こちらは、さらに残忍(?)な一句
〈露草の瑠璃をとばしぬ鎌試し・吉岡禪寺洞〉
〈句集『讀本』ふらんす堂2011年所収〉