蚊の仔細眺めんと手を喰はせをり 鎌田 俊
「刺されるのは嫌ですが、近寄ってきたら観察する余裕を持ちつつ、夏を乗り切りたい」という記事を読んだ。もちろん蚊の話。
蚊のほとんどの種類のメスは、脊椎動物の血を吸うが、それは卵をつくるため。オスもメスも日々のエネルギー源としては花の蜜などを吸っていて、血と蜜が入るところは、体の中で分かれているのだとか。そんな話を聞くと、血を吸いにくるメスの蚊がいじらしく思えてくる。
手にとまって血を吸っている蚊の様子を観察している姿は、ちょっとおかしく、俳味にあふれている。一句一章のおおらかさ、「手を喰はせをり」の大仰な言い方が効果的である。
ここには、仔細に眺めた蚊そのものではなく、「手を喰はせをる」人(作者)の人となりが表れている。
〈東京四季出版「俳句四季」2017年9月号〉