2017年9月3日日曜日

DAZZLEHAIKU9[山口昭男]渡邉美保 



月を待つみんな同じ顔をして   山口昭男


 子どもの頃、私の住む町では、十五夜(中秋の名月)に町を挙げての綱引きが行われていた。まだ宵の口から、若者たちが綱引きの綱を担ぎ、何やら叫びながら町を練り歩く。月が上ったら、通りの真ん中で、隣接する地区同士で綱引きが始まる。綱引きの中心になるのは若者達だが、町中の老若男女、子供たちも参加する。手の届かない子供たちは、綱に細いロープを掛けてもらい、それを必死に引っ張るのだ。
 豊漁の神と豊作の神の対戦とかで、豊漁が勝つか、豊作が勝つか綱の引き合いとなる。やがて綱が二つに千切れることで引分けとなり、豊漁、豊作の両方がめでたく確定する。空には満月が煌々と輝いている。夢の中の出来事のような、遠い日の光景を思い出す。
 月の出を待つみんなは、同じ顔をしていた。

  つきの ひかりの なかで
  つきの ひかりに さわられています
  つきの ひかりに さわられながら


      (まどみちお詩集「つきのひかり」より抜粋)

〈句集『木簡』青磁社2017年所収〉