簡単な体・簡単服の中 櫂未知子
ある日、母が「缶詰の服」なるものを買ってきた。缶から出てきた服は、一枚の布を筒状に縫い合わせただけのような簡単なものだった。母が着て、付属のベルトを締めると、あら不思議。服は体に添い、ちゃんとワンピースになっていた。妙に感心したことを思い出す。
〈簡単な体・簡単服の中〉のシンプルな語句の並列は、風通しがよく、涼しさを誘う。「簡単服」というレトロなニュアンスの季語が使われながら、とてもモダンである。
「簡単服の中」には「簡単な体」が入っているという発見は、どこか逆転していて、楽しい。簡単服の中の体、ついには、一本のチューブになってしまうのではないだろうかと心配になってくる。
〈句集『カムイ』2017.6 ふらんす堂 所収〉