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2022年9月12日月曜日

DAZZLEHAIKU65[花谷 清]  渡邉美保

九月が好き崩れる雲が速いから   花谷 清


  九月に入っても、まだ暑い日が続くなか、見上げる空は、青空半分、雲半分の空模様。青を背景に白くモコモコした雲が浮かんでいる。一方で、うすい雲が、真綿を引くように徐々に広がっていく。

 暑気、涼気の行き合う空には、夏の雲と秋の雲が混在していて面白い。

 こんな雲の様子を見ることが出来るのは、季節の変わり目の短い間で、まさしく九月なのだと思う。九月になると、空を見上げ、雲の流れを眺めることが増えるような気がする。


 掲句、「崩れる雲が速い」からは、台風の影響で変化する雲の動きも思われる。風の速い流れに従い、形を変えながら移動し、途切れ散り散りになってしまう雲。壮大な天体の、不穏な空気を孕みつつも、次々に崩れてゆく雲の動きに魅了されそうだ。


   〈見つつ消ゆ雲あり秋の雲の中  皆吉爽雨 〉

   〈すさまじき雲の走りや秋の空  政岡子規 〉

   〈颱風の雲しんしんと月をつつむ 大野林火 〉

   〈鰯雲しづかにほろぶ刻の影   石原八束 〉


〈句集『球殻』(2018年/ふらんす堂)所収〉

2018年8月31日金曜日

DAZZLEHAIKU26[花谷 清] 渡邉美保


  朝かと問われ夜と答える水中花    花谷 清

不思議な一句だと思う。 
水中花の飾られた部屋に、朝かと問う人がいる。夜だと答える人がいる。どういう場面設定を想起するかは読者にゆだねられている。
或いは…と別の解釈もできそうだ。
真夜中にふと眼覚め、朝かと思う刹那がある。「いや、まだ夜だ」と自分が気付くより先に水中花がそう答えた。と読むことはできないだろうか。問いはそのまま答えとなる。
色うつくしい花の姿にひらいて、コップの水の中に凝としづまっている水中花は、華やぎと哀れさとを合わせ持つ人工の花。いつだって「夜」と答えそうな気がする。水中花に朝は来るのだろうか。
夜と朝のあわいの短い会話から、或いは、自問自答から、人間のこころもとなさが感じられる。水中花という幻想の花もまた、こころもとなく、両者をとおして、生と死について考えさせられる。

〈句集『球殻』(2018年/ふらんす堂)所収〉