2018年10月30日火曜日

DAZZLEHAIKU28[金山桜子] 渡邉美保



  魚の鰭虫の羽音に水澄めり    金山桜子

  秋の長雨や、台風による出水からも日を経て、晴天が続き、朝夕の冷やかさを感じる頃。空気も澄み、川の水も、湖も沼も透明度を増し、水底まで見通せるくらい澄んでくる。
そんな水際に立ち、作者は水面を見つめたり、水の中を覗き込んだりしているのだろう。
掲句、「魚の鰭虫の羽音に」からは、周囲のしんとした静けさが伝わってくるようだ。助詞「に」の使い方にはっとする。〈水中のいきものの動きが鈍くなったから水が澄む〉のではなく、魚の鰭の動きの緩やかさ、虫の羽音のかそけさに、呼応するかのように水が澄んでいくと言っているように感じられる。
 「水澄む」の清らかさの中に、私たちは近づいて来る冬の気配を感じたり、自分の心の中を見つめたりするのではないだろうか。「水澄めり」にさびしさが漂いはじめる。


〈句集『水辺のスケッチ』(2018年/ふらんす堂)所収〉