2021年1月14日木曜日

DAZZLEHAIKU51[谷口智行]  渡邉美保

 神ときに草をよそほふ冬の月    谷口智行  
 
 青白い冬の月が、透きとおる大気の中で輝いている。
透徹した空気のため刺すような寒さが感じらる月はさびしく、美しい。
そんな時、風や樹や山に宿る神々も、大地が恋しくなるのだろうか。そして
荒ぶる神々も、「ときに草をよそほふ」のだろう。

 道端や樹木の下、野原の草々をよそおう神は、路傍の菫ほどの小さな姿にちがいない。草の実、草紅葉、草氷柱、枯草、七草、草木成仏。草のつく字はどれもやさしい。草になじんで生きてきた遠い祖先の日々の暮らし。それを受け継ぐ私たちもまた草を身近に感じながら生きている。
掲句からは、神もまた、草に寄り添い、人々の暮らしに深く寄り添ってきているような安らぎが感じられる。冷たい冬の月に照らされた大地を覆う草々に、神の気配があたたかい。

句集のあとがきに「私たちの祖先は鳥獣、草木虫魚、などに対しても自然の恩寵と畏怖を抱き、そこに篤い信仰を見出だして来たのである」と述べられている。
いわゆる土俗の神の存在を身ほとりに感じながら生活されている作者の視座の温かさを思う。

〈句集『星糞』(2019年邑書林)所収〉