草虱妹の手の邪険なる 桑原三郎
「草虱」は、夏に白い小さな花をつけ、秋になると棘上の堅い毛が密生した実を結ぶ。この実が道行く人の衣服や動物につき、くっつくと取りにくいので藪虱あるいは草虱と呼ばれるという。
草虱を衣服にいっぱいつけて帰ってきた兄と、出迎えた妹とのやり取りが目にみえるようで、なんだか可笑しい。
「まあ、こんなにいっぱい草虱つけて…いったいどこを歩いて来たの?」などと言いながら、上着やズボンについた草虱をせっせと抓んでゆく妹。その手さばきは少々荒っぽい。その荒っぽさに困惑気味の兄は「妹の手の邪険なる」と嘯く。けれど内心は有難く思っているに違いない。邪悪なのは妹の手なのだ。
草虱をとってくれる人が恋人や妻だったら、「邪険」とは言わないだろう。兄と妹のサバサバした関係が目に浮かぶ。ほのぼのとした味わいの一句だと思う。
猫は人を猫と思ひぬ十三夜
指組んで指先余る秋の風
柿喰うて般若心経棒読みす
秋風や木馬の芯に強き発条
草の実やどこにも人が居て食べて
ゆく秋のもの喰つて口残りたる
晩年に先がありさう猿酒
弟よ寒夕焼がまだ消えぬ
〈句集『だんだん』(2023年/ふらんす堂)所収〉