2018年2月19日月曜日

DAZZLEHAIKU19[岩淵喜代子]渡邉美保


 飴舐めて影の裸木影の塔      岩淵喜代子

 飴、裸木、塔からの連想で、吟行中の一齣を想像した。
 散策に疲れ近くのベンチに腰を下ろす。飴を含み、口中にひろがる甘味にほっと一息をつく。冬空のもと、葉を落とした裸の木々は、枝枝とその蔭が重なり合い、美しい模様を描いている。高く聳え立つ塔は翳りを帯びている。冷えた体から吐く息はほの白く甘い。今眺めている景色は、現実のものであっても、現実のものではないかもしれないという浮遊感。眼前の裸木も塔も、それを見ている「私」も影でしかないのではないか。さびしい季節、実らぬ時間。そして、影を見ていることの心地よさ。
 掲句の、「飴舐めて」のやわらかな動作から導かれる「影の裸木影の塔」の硬質なイメージに惹かれる。


〈句集『穀象』(ふらんす堂/2017年)所収〉