熱出してゐるやうなかほ羽抜鶏 しなだしん
鳥類の羽は六月から晩夏にかけて冬羽から夏羽へと抜け替わる。この頃の羽の整わない鳥を羽抜鳥というそうだ。鶏などは晩夏のころが多いようであるが古い羽が抜けて、新しい羽の生えそろうまではみすぼらしい姿となるという。その羽抜鶏の貌が「熱出してゐるやうなかほ」とは・・・。羽が抜けているだけでも十分気の毒なのにと、同情する。
子供の頃、郷里では鶏を飼っている家は多く、生活の身近なところに鶏がいた。庭先などでよく貝殻などをつついていた。最近は鶏を見る機会ないなぁと思っていた矢先、テレビのニュースで、鶏舎の様子が大写しになった。連日の酷暑に、鶏が夏バテして、食欲もなく、卵を産む量が減っているという。ケージから首を伸ばしている鶏の貌を見た。熱に火照ったような、疲れ果てた貌である。まさに、「熱出してゐるやうなかほ」そのもの。
ところで鶏の体温は何度なのだろうか。鶏の体温は平均で約41℃(一般的に多くの哺乳類よりも数度高い。)外気温の影響を受けやすく、高温では熱を放散するために、口を開けて呼吸したり、開翼したりすることで体温を調節するという。気温27.5℃以上に上昇してくると体温が上がり「暑熱ストレス」を受け始めるというから、今夏の気温は受難である。
鶏舎の羽抜鶏は見るからに哀れで切ない。鶏にも人間にも早くこの酷暑が去り新涼の風が吹き抜けんことをと願うばかりである。
〈句集『魚の栖む森』(2023年/角川書店所収)〉