2026年7月31日金曜日

DAZZLEHAIKU89[森澤程] 渡邉美保

 はじめての雨葉裏まで蟬あるく    森澤 程


 蝉が羽化して初めての、雨との出会い。雨粒は羽化したての瑞々しい翅にどんなふうに落ちたのだろうか。はじめて地上に出てきた蝉の眼に雨はどんなふうに映ったのだろうか。地上から葉裏まで歩くとき、どんな様子だったのか。(のそのそ?)ヒトから見たら、ほんのわずかな距離だが、生まれたての蝉にとってはどんなものなのか、とても気にかかる。雨、羽化したばかりの蝉、そよぐ青葉。なんと透明で繊細な光景かと思う。

 

 ある台風一過の朝、庭先で偶然蝉の羽化を見たことがある。蝉の殻を脱いでいる最中の蝉だった。昨夜からの雨は上がっていたが、周囲は雨に濡れているし、蟬自身もぐっしょり濡れていて(もちろん翅も)、脱ごうとする殻がなかなか脱げないのだ。脚を出し、殻を脱ごうとするが、翅が思うようには出てこない。翅を少しずつ乾かしながら、を何度も繰り返しようやく殻が脱げたときは思わずため息がでた。その後のそのそと木の幹を這いあがり、少し高いところで留まった。じっと動かないで翅が完全に乾くのを待っているようだった。

抜け殻が地面に残った・・・。


鉄柵に粘っていたり蝸牛   森澤 程

たましいの昼夜逆転かぶと虫

かなぶんの青と藍との境界線

影得つつあり頂上の揚羽蝶

前衛も糞ころがしも風のなか

〈句集『プレイ・オブ・カラー』(2016年/ふらんす堂)所収)〉