2017年2月12日日曜日

広渡敬雄句集『間取図』ー感性と観察眼に裏打ちされた描写力ー    豊里友行 




郭公や雲を離るる小海線



 なんか好きなリズムで観察眼にも流れる威風堂々とした格調高さに舌を巻く。

小海線(こうみせん)は、山梨県北杜市の小淵沢駅から長野県小諸市の小諸駅までを結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(地方交通線)。郭公(かっこう)のドラミングが木魂する南アルプスを背に雲を離れていくというリズムも心地よく走る小海線が、眼に浮かぶようです。


 裏返りつつ沢蟹の遡る

懸命に生きている生き物たちの命の描写がドラマチックでありながら感動をダイレクトに伝えてくれる。

観察眼の効いた俳句には、まさに威風堂々とした格調高さが立ち現れる。

共鳴句を頂きます。


 冬すみれ夕暮れ畳むやうに来て


夕暮れを「畳む」という感性に脱帽。


 蛇ゆきし草ゆつくりと立ち上がり 草を擦りつつ上りゆく鯉幟 蛍烏賊闇を震はせ上がりくる


蛇のゆっくりと這う様の描写力が凄い。鯉幟を上げる描写力も。蛍烏賊が「闇を震はせ」上がりくるという描写力。


これら感性と観察眼に裏打ちされた秀句がこの句集の醍醐味。



 糸瓜棚より子規が見え律が見え おまへだつたのか狐の剃刀は 木枯し一号何となく父のこと 冥王星ほどの明るさ梟の眼 間取図に手書きの出窓夏の山 角よりも尻たかだかと鹿去りぬ 兜虫ふるさとすでに詩のごとし