夏めくや何でも映すにはたづみ 藺草慶子
この冬に、藺草慶子氏の第四句集がふらんす堂から刊行された。「いづこへもいのちつらなる冬泉」の一句が本の帯に大きく印刷してある。季節は「冬」だが、夏の俳句をひとつ。
「にはたづみ」は雨が降って、にわかに地上にあふれ流れる水のことであり、枕詞でもある。要するに水溜りのことであるが、にはたづみに対する「何でも映す」が実に清々しい。最近気になっていることは、別誌文章にも書いた通り、副詞の使い方である。「何でも」は「映す」という動詞に対してプラスの方向性に掛かっている。夏のはじまりの晴れ晴れとした景色に「何でも」が呼応していくのである。
<『櫻翳』2015年ふらんす堂所収>