初夢に踊り狂へり火星人 高山れおな
「初夢」が正月の大晦日から新年三日ぐらいのあいだに見る特別な、運勢を占う夢としてひろまったのは江戸時代ごろというが、起源ははっきりしていない。一富士二鷹三茄子、は家康の好物である、などという俗説も巷間には唱えられているようだがそれも定かなものではないようだ。さらに言えば、「宝船の絵を枕の下に敷くといい夢が見られる」ことは初夢とは別に発達(?)した風習なのだという。いろいろな思惑が組み合わさり、睦月二日の夜から三日の朝にかけてよい夢を見て、一年の幸運を得るために、宝船の絵を枕の下に秘す、というのが現在のスタンダードなまじないの一連だろうか。
掲句では、火星人が踊り狂っているのだという、初夢で。これはいったいどんな卦が読み取れる夢なのか。踊り狂う、と表されるその踊りは、ゴーゴーダンスのようなものだろうか。火星人のビジュアルはやはり『マーズ・アタック』に登場するような(というよりはほぼH・G・ウェルズ『宇宙戦争』のせいと言うべきか)おなじみのタコ型なのだろうか。地球人の夢が地球の事象に限定される謂われはない。なのに我々は現実空間に縛られすぎている。それにしても、これは途中で飛び起きてしまいそうな夢である。
句集『ウルトラ』には他にもラジカルな夢にまつわる俳句が登場する。「チチョリーナ」は世界初のハードコアポルノ女優出身の国会議員として90年代当時何度もニュースに登場した人物である(ググってみたら御年64歳とのこと)。
昼寝せば額に釘打たるる恐れ
白鳥の首つかみ振り回はす夢
大根の畑を夢で拡げけり
チチョリーナの夢に見られて沖膾
早馬が夢の花野を過りけり
句集題『ウルトラ』は文字通りの「超」の意味はもとより、フランス王政復古期の極右反動の一派「超王党派」を意識しての命名である、とあとがきにある。超王党派の“天晴れな現実無視と時代錯誤の精神”とは、現代俳句そのものをある側面からまったく等身大に言い表しているように思えてならない。
〈『ウルトラ』沖積舎/1998所収〉