2017年4月9日日曜日

フシギな短詩100[目次]/柳本々々

【1、御中虫さんと揺れ
2016年の〈今〉も、わたしたちの〈すべて〉の関さんは、揺れる。

【2、北大路翼さんと乳輪
俳句は、乳房に、たどりつけない。

 【3、イイダアリコさんとゴジラ
わたしたちは俳句を通して〈初めてのゴジラ〉や〈初めての乳輪〉に出会う。

【4、松本てふこさんと希望
語り手は逮捕されるかもしれない。でも、状況はシリアスではなく、「うららか」だ。これから「出頭」をするというのに、ここにはフシギな希望がある。

【5、石原ユキオさんと災難
ひしめきあったペンギンたちをひとめみてわかるのは、それが〈もふもふ〉しているということである。たぶん、あなたがそこに頭からつっこめば〈もふもふ〉するだろう。わたしも。

【6、関悦史さんとテラベクレル
語り手はいまや季語をあんのんと使える世界には暮らしていない。季語を使い、季節のなかに身を置こうとすると、〈テラベクレル〉をも抱えこまざるをえない世界。それが語り手が身をおく春である。

【7、中山奈々さんと外傷】  
「傷って消すもんじゃないんだよ。生きられるものなんだ」 私は、もっと、床の一部になる。 

【8、宮本佳世乃さんと心臓
ひとりにひとつずつの心臓、ひとりにひとつずつの手、ひとりにひとつずつの足、ひとりにひとつずつの内臓、ひとりにひとつずつの身体、ひとりにひとつずつの身体の《仕組み》。わたしたちの身体は、桜餅のように、驚くほど律儀だ。

【9、佐藤文香さんと恋愛
恋愛とは〈俳句〉に疎外される〈わたし〉のことだ。

【10、小倉喜郎さんと多忙】  
だからこんなふうにも思う。語り手は身体を完成させるために「急」いでいるのかもしれないと。それならば私にもわかる。私もきっとこう言うはずだ。「急がねば」。

【11、榮猿丸さんと抱擁】  
今度抱擁するときに少しだけ確かめてみてほしい。いま、〈僕ら/二人〉は〈どこ〉で〈いちゃいちゃ〉し〈抱擁〉しているのかを。

【12、長嶋有さんと不倫】  
わたしたちはときどき「すごい不倫」の話をきく。わたしたちは「すごい不倫」のわきでなにげなく買い物をしたり、ブランコに乗ったり、河のほとりでたたずんでおしゃべりをしたり、電車のなかでずっと読みかけのままだった文庫本を読み終えたりする。でも「すごい不倫」はいつもそこここにある。

【13、喪字男さんと混入】  
お花見のなかで、語り手は「乳房」からいま・ここの感覚をとらえようとしている。そこでは誰それがいるということが問題になるのではなく、どのような乳房があるかが問題に、なる

【14、久保田紺さんと隙間】   
いま、〈大好き〉を通して〈未知〉にであう

【15、なかはられいこさんと回避】  
わたしたちは、わたしたちがいつも語ろうとしない〈回避〉のなかに《こそ》、棲みつづけている。

【16、中澤系さんと理解】  
「誰もが未来のどこかの地点で、世界から「理解できない人は」と告げられることになる。「下がって」と」 

【17、リチャード・ブローティガンさんと俳句】  
「森の中をこっそりと動いてゆくオオカミのように、書くということの、ひとりぼっちの道すじをたどりつづける勇気」 

 【18、野間幸恵さんと水
たえず〈ここ〉になることのできない〈ここ〉がわたしたちのなかに〈ある〉。水、のような。

【19、米川千嘉子さんと主人公
どんなに「死のうと思って」も、たえず、歌を、言語を、顔をとおして〈わたし〉に複数性を与えること。もうひとつの生を。どんなに生が行き詰まっても、わたしたちはわたしとわたしの往還をつづける限り、どうにか、なる。

【20、加藤治郎さんと崩壊】  
わたしたちは、創造しなければならない。新しい廃墟で。

【21、東直子さんと桜桃忌】  
「私の大好きな、よわい、やさしい、さびしい神様。世の中にある生命を、私に教えて下さったのは、あなたです」

【22、泉紅実さんとあんかけ】  
ちゃんといちゃいちゃしてみよう。

【23、牛隆佑さんと二人暮らし
凹凸の少ない町で、凹凸のような突然の「そして」から〈ふたり〉の暮らしは始まった

【24、岡野大嗣さんと祈り】  
それは〈きれいな鼻歌〉の、終わりのない、〈とぎれとぎれ〉の、たったひとつの〈長い歌〉としての祈り 

【25、木下龍也さんと幽霊】  
どれだけ〈わたし〉が死んだとしても、まだやってくる生のたくましさと愛おしさ。「おめめ」、この愛すべきもの。

【26、兵頭全郎さんとポテチ】  
意味に負けないよう、燃え尽きないよう、くるくると循環し続けること。無限のポテチ(∞)と共に。  

【27、金原まさ子さんとシャウト】  
「折檻部屋」を出たり入ったりする。真顔で。すました顔をして。折檻される季語のシャウトを目撃しながら。ああ。世界はなんて〈初めて〉ばかりなんだろう、とおもう。

【28、飯田有子さんとたすけて】  
「たすけて」ほしい主体が「たすけて」と叫んでゆくそのプロセスのなかで壊れていく。たすけて

【29、柳谷あゆみさんとマリオ】  
たった〈一度〉しか生きられないこと。わたしたちのすごくシンプルな生のリアリズム。

【30、田島健一さんと奥だらけ】  
「もはや誰が不審者なのかすらわからない」全方位的に主体が解体される場所。

【31、飯島章友さんと巨眼
でも誰かはわからない。誰かがいるのはわかるけれど。そして、その誰かと、ときどき、ふっと、眼が、合う。

【32、車谷長吉さんと崖
「頭の中には崖があるのね?」「そうや、崖があるんや」

【33、川合大祐さんと野比のび太
のび太とわたしはタンジールの大門で別れた。たしか、わたしたちは「さようなら」もいわなかったように思う
 
【34、外山一機さんとドラゴンクエスト
ここは ゆうきをためされる しんでんじゃ。 たとえひとりでも たたかうゆうきが おまえにはあるか? 

【35、中家菜津子さんとフェルナンド・ペソア】  
あらゆる詩はいつも翌日に書かれる。

【36、吉田類さんとロラン・バルト
少しでも希望があるのならおまえは行動する。希望はまったくないけれど、それでもなおわたしは……あるいはまた、わたしは断固として選ばぬことを選ぶ。漂流を選ぶ。どこまでも続けるのだ。

【37、北山あさひさんと廃屋】  
結婚をひとりでしたい。

【38、瀬戸夏子さんと相思相愛】  
「デニーズが消えたとき、どんな感じだった?」「ものすごく光ってた。きらきらしてた」

【39、夢野久作さんと犯罪】  
なぜということなしに殺したくなるのです。あとからついて行きたくなるのです。

【40、佐藤りえさんと人外】  
「まず最初に幽霊(妖精やら異星人や鶴)という不思議キャラ設定が紹介され、そこから二人の関係性が始まるのがサブカル的「人外」の基本セオリーなのだ」  

【41、松尾芭蕉さんとゾンビ】   
芭蕉ゾンビは順応するのでも抵抗するのでもない。増殖するにしても生成変化することも進化することも退化することもない。芭蕉ゾンビにはいかなる解決もカタルシスもない

【42、正岡豊さんとまばたき】  
つまり、〈終わってしまった〉のではなく、〈はじまってしまった〉こと。それが《ほんとうに》ひとがあきらめることのかたちなのではないか。

【43、石川啄木さんとだらしなさ】  
縦の文芸にあらわれる〈だらしない〉横の姿勢の系譜。それはなんなのだろう。

【44、穂村弘さんと魔術】  
夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう

【45、荒木飛呂彦さんと五・七・五】   
五・七・五は自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……わたしに勇気を与えてくれる

 【46、小坂井大輔さんと三十五歳問題】  
芥川龍之介にはおそらくいなかった「死ぬなと往復ビンタしてくる」先生。2016年の35歳は、奇妙に〈ひらかれた場所〉に、いる。

 【47、笹井宏之さんとえーえん/永遠】  
かつてジャック・ラカンは言った、「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」

 【48、ながや宏高さんと覚悟】  
この連作の水は、このわたしに覚悟を要請してくる水だ。境界を越えるのか、越えないのかの、覚悟を。おまえはどうするのか、と。

 【49、壇蜜さんと友だちってなんですか】   
手放せることが出会いなのかもしれない。なんか、あ、手放していいんだなって。ともだちってなんですかってきかれたら、たぶん、手放せることだなって。

【50、ミムラさんと音のとげ
短歌は〈音のきもちよさ〉だけでなく〈音のきもちわるさ〉も考えることができるジャンルかもしれない。〈きもちよさ〉だけでなく〈きもちわるさ〉に敏感であるためにはどうしたらよいのか

 【51、斉藤斎藤さんと歩くしかないように歩いた
船のなかでは手紙を書いて星に降りたら歩くしかないように歩いた

【52、村上春樹さんと若山牧水】  
でも青がないんだ、と僕は小さな声で言った。そしてそれは僕が好きな色だったのだ。  

【53、岩田多佳子さんと世界に味方せよ】  
お前と世界のたたかいでは、世界に味方せよ──。  

【54、小津夜景さんとぷるんぷるん】  
純粋にはなれない。何も捨てることもできない。忘れることもできない。叶うこともない。ぷるんぷるんは切迫する。そしてぷるんぷるんは、たぶん、そのたびごとにがまんができないという。

【55、石部明さんと嘔吐するシン・ゴジラ】  
ゴジラは「かがんで蝶を吐」いている。美しいスペクタクルのような蝶を吐きながら、ゴジラは「生きるか死ぬかに関わる痙攣にして闘争」をしている。

【56、雪舟えまさんとゆれるぽるぽる】  
きみは何でもできるのにここにいる

【57、西原天気さんとソファー】  
これからどんな素晴らしく、くだらなく、崇高で、過激で、だるく、斬新で、陳腐で、軽やかな「身に覚え」のあってないようなことがやってくるのか

【58、田村ゆかりさんと8音】  
わたしたちはときどき寝込みながらもいっしょうけんめい生きてきた。

【59、森三中・大島美幸さんと夏井いつきさん】  
「なぜわたしではないのです」の世界から「夫は他人なので好き」の世界へ

【60、平岡直子さんとライオン】  
そのライオンさえも見つけられなかった者たちがいたこと。それは力に触れ得なかった者たちがひとりふたりさんにんと無力でありながら生きていくための生き延び方についての話。

【61、新海誠さんと小野小町】  
世界から忘却されたふたりだけれど、お互いは、光っているから、その〈運動〉によって、それとなく、わかる。わかってしまう。わかってしまった。だから、問いかけた。「君の

【62、舞城王太郎さんと木下龍也さん】  
絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶
 
【63、熊谷冬鼓さんと茹であがるパスタ
茹であがるパスタ以上でも以下でもない場所にたたずんで未来から次から次へとおとずれる〈あなた〉のことを待っているのだ。ことば、茹でながら。

【64、フラワーしげるさんと柿本人麻呂
なにを記憶し、なにを忘れようとしたか

【65、リービ英雄さんと言葉の興奮
わたしは、いま、こうふんしている。

【66、時実新子さんと産もうかな
きょういちにちをたまたま生きてみよう
 
【67、小池正博さんと兎カニバリズム】  
これからは兎を食べて生きてゆく

【68、俵万智さんと卵サンド】  
ともかく、サンドイッチは危機的な食べ物かもしれない。

【69、本多真弓/本多響乃さんとひとを好きになる
クリスマス前なので「ひとを好きになる」ということについて少し考えてみよう。

【70、吉田戦車さんと萩原さん(仮名)】   
つまり、なんなのか。

【71、松岡瑞枝さんとさようなら
(2016年の最終回)  Oh, Mama, can this really be the end もといこんにちは

【72、宮沢賢治さんとキノコ短歌】  
新年キノコ始め。私にとってもはじめてのキノコ感想文。キノコをみて泣いているひとがいる。いったい、どうしたのか。そして私は、いったい、どうなるのか。

【73、TVのCMと柄井川柳】  
前回はキノコの食べ過ぎでこんらんしてしまい、72回のところを誤って73回と記したが、今回がほんとうの73回である。今は、落ち着いている。

【74、渥美清さんと暗殺】  
ローソクをもってみんなが離れてゆく。むほん、だ。 

【75、昔昔亭桃太郎さんと石川豚木(ぶたぼく)
「知能テストです。『夜明け前』を書いた作家は誰ですか」「それは簡単です。2人います。島崎さんと藤村さんです」(私の頭はときどきふわふわしている) 

【76、八上桐子さんと時実新子
なにを見るか、ではなくて、まぶたを閉じた上で、なにを見ないことで・見ようとしたのか。決意したのか。

【77、宝川踊さんと帰らない力士
すこしだけ笑って、そのまま帰ってこなかった力士。いったい、なにがあったのか。力士のきもちになってかんがえてみた

【78、伊藤左千夫さんと太宰治さん】  
元気で行こう。絶望するな。では失敬。  

【79、望月裕二郎さんと時をかける少女】  
玉川上水水流循環動力生成装置とは、いったいなんなのか

【80、R15指定と悲しいセックス】  
「入れたら終わりよ。そういう遊びなんだから」

【81、尾崎放哉さんと捨てる
「あんたは帰れんよ。帰れる道理がなかろうがさ。これまでだって捨てられんかったんだ。あんたは捨てた気かしらんが。一度捨てたら二度は捨てられんよ」

【82、新宿歌舞伎町俳句一家屍派と北大路翼さん
あるきつづける。生きるために。生きないために。春の通路を。

【83、筒井祥文さんとやって来た猫
こんな手をしてると猫が見せに来たわけだが

【84、鳥居さんとなんで
なんで生きるの。なんで死ぬの。

【85、くんじろうさんとムーミン
よその家を訪ねるのです。人に会いにいくのです。一日中お喋りをして愉快に騒いで忙しく家から出たり入ったりして薄気味の悪いことなんて考えている暇のない人たちに会いにいくのです

【86、永井一郎さんと声
私にはナウシカしかありませんでした。どんなセリフもその内容は「ナウシカを守り抜く」ということでした。ミトにとっても私にとっても「ひめさまー」がいちばん重要なセリフでした。

【87、富野由悠季さんと戦争なのよね
戦線から遠のくと楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ。

【88、丸山進さんと私は変ですか
あなたから見ても私は変ですか

【89、竹井紫乙さんと痛い
傷つくと、会える。

【90、堂園昌彦さんと創造されるゆっくり
わたしたちは〈ゆっくり〉をつくらなければいけない。
 
【91、加藤知子さんと関悦史さん
少し、ずるくて、かっこいい者とは。

【92、夏石番矢さんとコカ・コーラ
内面化とは、それに気づかなくなることなのではないだろうか。ナイこと。内(ナイ)として、気づかないこと。「内面の吸収を抑え、内面の排出を増加」する特定保健用食品コーラ。

【93、ドラマ『相棒』と歌人
愛は時に人に勇気を与えます。しかし愛は時に人を臆病にもします。/杉下右京

【94、正岡子規さんと田島健一さん
脳のなかがもうもう、ぼんやり、座ったまま眠るでも覚めているでもない、私が言ったわけでもなくひとが言ったわけでもなく、ただ、カエル、耳に響いてくる、それはもう俳句だった。

【95、うんこ漢字ドリルと現代川柳】  
「うんこにも羽が生えたらいいのに」「うん、そうだね」

【96、石田柊馬さんと妖精大戦争】   
妖精は酢豚に似ている絶対似ている妖精は酢豚に似ている絶対似ている妖精は酢豚に似ている絶対似ている妖精は酢豚に似ている絶対似ている妖精は酢豚に似ている絶対似ている

【97、大川博幸さんとあやふや
私はぼんやりした猫である。気づいたときはあやふやだった。ぼんやりしたひとに飼われて、二人で、あやふやな暮らしを送っていた。彼はいつもぼんやり編物をしぼんやり花に水を遣った

【98、谷川俊太郎さんと岡野大嗣さん
人類は小さな球の上で眠り起きそして働きときどき火星に仲間を欲しがったりする

【99、明恵上人さんとんんんんんんん】 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

【100、目次と100の不思議
「アイザック・ディーネセンはこう言った。私は、希望もなく絶望もなく、毎日ちょっとずつ書きます、と。いつか私はその言葉を小さなカードに書いて、机の横の壁に貼っておこうと思う」