2014年12月1日月曜日

今日の小川軽舟 21 / 竹岡一郎



秋の蚊を打つや麻雀放浪記     「近所」

 「麻雀放浪記」は、阿佐田哲也のピカレスクロマン。昭和四十年代(小川軽舟の少年期に当る)の麻雀ブームの火付け役となった。掲句には何の人物描写もない。しかし、目の鋭いやさぐれた人物も、その人物が何かに命を懸けている有様も、蚊を打つ鋭い動作(その動作は麻雀の牌を打つ動作にも通じる)も、くっきりと見えて来るのは、「麻雀放浪記」という、人心に通じた物語の固有名詞のみを配した手柄である。夏の蚊ではなく、秋の蚊であるところに、賭博師の悲哀が象徴される。平成六年作。