蛍消えとなりの人とさはりあふ 佐藤文香
蛍狩りというほど大袈裟なものでもないような、どこか河原か、水の綺麗な場所なのか。
淡い光が消えたのを合図とするかのように、隣り合うものが互いの体に手を伸ばす瞬間が詠まれている。
「となりの人」という、関係性でなく位置のみをあらわすような書かれぶりから、その「となりびと」の表情が読み取れない。
むしろ表情など必要なくて、「さはる」ことにのみ神経を集中しているようですらある。
原始的な欲求に突き動かされている、みたいな。細かい機微は置いて、とにかくさわる、とでもいうような。
表情の見えなさから、さわりあっているのは、実は誰なのだろう?という、微妙な怖さが醸し出されている点もある。
ひらがな表記「さはりあふ」をじっと見ていると、体が見えてくる。
恋情とか欲情とか名付けてしまうのは野暮なようで躊躇われる、蔓のようなものが互いに向かって伸び巻き付き、からみあっていくのが見えてくる。
〈『君に目があり見開かれ』港の人 2014〉