2017年6月14日水曜日

DAZZLEHAIKU4 [森澤程]渡邉美保



鯉跳ねる音の数秒夏銀河  森澤程


あっ鯉が跳ねた。その一瞬の水音を聴きとめたとき、作者は何をしていたのだろうか。どこにいたのだろうか。いろいろなシチュエーションが考えられる。どんな場合であれ、その数秒間の水音は、確かなものであり、夏の夜の静けさと、鯉の存在を浮かび上がらせる。澄んだ大気の中、空には銀河がゆったりと広がっている。
「鯉」と「夏銀河」の組み合わせにより、空間は一挙に広がりと奥行きを持ち始める。「鯉」から「銀河」への飛び方は、一見唐突なようで、どこか繋がっている。
鯉の跳ねる水音を聴いたその刹那、作者は銀河のほとりに立っていたのかもしれない。無数の星々がばらまかれた広大な銀河。その中で鯉が小さな点となって泳いでいる光景。鯉の寂寥感は、それを見ている作者の寂寥感でもあるだろう。


  鯉を抱く夢のつづきの夏の水

  真夜中の方から来たり錦鯉

  小雨から緋鯉の模様抜け出しぬ


いずれも同句集中の鯉の句。現実と異空間の間を行き来している鯉の姿は美しく、寂しげだ。


〈『プレイ・オブ・カラー』2016.10 ふらんす堂〉