浮きあがる水平線や種袋 安倍真理子
穏やかな春の日差しを反射して、海はきらきら光っている。遠くの水平線は、徐々に膨らみ、浮き上ってくるように見えることがある。
そこに置かれた「種袋」という季語の意外性。この種袋は、花屋に並ぶカラフルな花の種袋ではなく、畑で農作物を植えるための種の入った武骨な種袋。春の訪れとともに始まる農作業を象徴している。種袋の中で、種子は、開花や収穫の期待感に大きくふくらみ、ひしめき合い、ざわめいているだろう。
海の見える畑の、農作業の明るさや喜びが伝わってくる一句である。
<東京四季出版「俳句四季」2017年4月号>