是非もなく長女なりけり梅を干す 利普苑るな
長女の重圧が伝わってくる。作者はそれを否応なしに受け入れざるおえず、日本の伝統保存食、梅干しを作っている。多分、子供の頃より自分の立場をわきまえて我慢してきた人とご苦労を感じる。「おねえちゃんなんだから」という声がいつも頭に響いている人なのだ。梅干しの酸っぱさがしみじみと伝わる。
あとがきに因れば、作者の母上は27年前に他界されている。きっと母上亡き後の家の整理、家族の世話など、諸々を引き受けて来られたのだろう。丹精込めて作った伝来の梅干しもこの作者は惜しみなく兄弟姉妹にも配ってしまう方だろうと想像する。<なりけり>の<けり>の効果がある。
<失せやすき男の指輪きりぎりす><壺にして竜胆の声鎮まりぬ><あつけなく猫の逝きたる桜かな><すかんぽやこの世に会えぬ師のありし>など共感できる句が詰まっている。
作者は1959年生まれ。自分と同世代の女性である。
今年は梅干し作ろうかどうしようか、梅の実が色づき、五月がはじまった。
<『舵』(2014年9月 邑書林)所収>